「採用できない」だけではない。従業員の退職が企業経営を揺るがす時代へ

「人手不足」という言葉を耳にする機会が増えています。
これまで企業の人手不足対策というと、「どうやって新しい人材を採用するか」という採用活動に注目が集まりがちでした。
しかし、現在はもう一つ重要な視点があります。
それが、**「今いる従業員に、どう長く働いてもらうか」**という定着の問題です。
帝国データバンクの調査によると、2026年1~7月に判明した人手不足倒産のうち、従業員や経営幹部などの退職が直接・間接的な要因となった「従業員退職型」の倒産は83件となりました。
前年同期の74件から9件増加し、約12.2%増となっています。
また、2022年以降5年連続で増加しており、前年の2025年には年間124件と、初めて100件を超えました。
2026年もこのペースが続けば、年間で過去最多を更新する可能性が高いとされています。
「退職=人事の問題」ではない
従業員が1人退職したからといって、すぐに会社が立ち行かなくなるわけではありません。
しかし、企業規模が小さい場合や、特定の従業員に業務が集中している場合は事情が異なります。
例えば、
- 特定の従業員しか対応できない業務がある
- 管理職やリーダーに業務が集中している
- 採用しても即戦力になるまで時間がかかる
- 退職者の業務を残った従業員が引き継ぐ
- 残った従業員の負担が増える
- 負担増によって、さらに退職者が出る
このような連鎖が起きると、単なる「1名の退職」が、組織全体の問題へ発展する可能性があります。
特に、少人数の熟練者や中心メンバーに事業運営を依存している企業では、従業員の退職や長期離脱が、そのまま業務遂行能力の低下につながるケースがあります。
つまり、従業員の退職は人事部門だけが対応する問題ではなく、経営そのものに関わるリスクになっています。
「採用」と「定着」は切り離して考えられない
人手不足になると、多くの企業が求人広告、人材紹介、スカウトなどの採用施策を強化します。
もちろん、採用活動は重要です
しかし、
「採用しても、また辞めてしまう」
という状態であれば、採用活動だけを強化しても根本的な解決にはなりません。
例えば、年間10人を採用しても、同じくらいの人数が退職していれば、組織の人数は増えません。
さらに、採用費用、教育コスト、現場の負担などを考えると、企業にとって大きな負担になります。
そのため、これからの人材戦略では、
採用する → 定着する → 活躍する
という一連の流れで考える必要があります。
賃上げだけでは解決できない問題もある
今回の帝国データバンクの調査では、コスト上昇分を価格へ転嫁できず、賃上げの原資を確保できないことで、キーパーソンの流出につながった事例も紹介されています。
企業にとって賃金は重要な定着要素です。
一方で、すべての企業が大幅な賃上げを継続できるとは限りません。
だからこそ、賃金以外の「働き続けたい理由」を整理することも重要になります。
例えば、
- 管理職とのコミュニケーション
- 評価制度の納得感
- 業務量や役割の適正化
- キャリアアップの機会
- 教育・研修体制
- 職場内の人間関係
- 有給休暇や勤務時間の取りやすさ
- 経営者と従業員との距離
- 自分の仕事が会社や社会に役立っているという実感
こうした要素を一つずつ確認していく必要があります。
企業の半数以上が正社員不足を実感
帝国データバンクが2026年4月に実施した調査では、正社員が「不足している」と回答した企業は50.6%でした。
4月としては4年連続で半数を超えています。
つまり現在の企業にとって、
「採用できないリスク」と「退職されるリスク」を同時に考える必要がある
という状況です。
採用市場が厳しいからこそ、今いる従業員の定着を考えることは、採用活動と同じくらい重要な経営課題になっています。
まず確認したい「退職リスク」の5項目
従業員の定着について考える際、いきなり制度を変更する必要はありません。
まずは、自社の状態を把握することが重要です。
① 退職理由を把握できているか
退職者本人から聞いた理由だけでなく、
「本当の退職要因は何だったのか」
を考える必要があります。
② 特定の人に業務が集中していないか
「この人がいないと業務が回らない」という状態は、経営上のリスクになります。
業務の属人化を確認することが重要です。
③ 管理職と従業員のコミュニケーションは十分か
問題が大きくなってから面談するのではなく、日常的に相談できる環境があるかを確認します。
④ 評価や待遇に納得感があるか
給与額だけではなく、
「なぜこの評価なのか」
「何を頑張れば評価されるのか」
が従業員に伝わっているかが重要です。
⑤ 採用と定着を別々に考えていないか
採用人数だけを追うのではなく、
「採用した人が半年後、1年後も働いているか」
まで確認することが重要です。
人材確保の時代から「人材を活かす」時代へ
これからの企業経営では、
「人を採用する」
だけではなく、
「採用した人が長く働き、能力を発揮できる組織をつくる」
ことが、より重要になります。
人手不足の問題は、求人広告を出せば解決するものではありません。
採用活動、職場環境、マネジメント、評価、教育、キャリア、業務改善など、さまざまな要素が関係しています。
だからこそ、採用と組織改善を別々の問題として考えるのではなく、一つの「人材戦略」として考えることが必要です。
私たちが大切にしていること
私たちは、採用支援だけを行うのではなく、
「採用できる状態」と「人が定着できる組織」の両方をつくること
を重視しています。
求人内容の見直しや採用広報だけでなく、採用プロセス、面接、入社後の定着、組織内のコミュニケーション、評価制度など、企業ごとの課題を整理し、改善につなげていきます。
人材不足への対応は、「人を増やす」だけではありません。
今いる人が辞める理由を減らし、一人ひとりが力を発揮できる組織をつくること
も重要な経営戦略です。
「採用しても定着しない」
「特定の社員に業務が集中している」
「退職が続いている」
「求人を出しても応募が集まらない」
このような課題を感じている企業は、採用活動だけではなく、組織全体を一度見直してみることをおすすめします。
参考資料
株式会社帝国データバンク「『従業員退職型』の倒産動向(2026年1-7月)」
株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」


